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企業と高校生、
建築設備の未来をつくる
出逢い「模擬企業展」
岐阜県の建築設備業界の
未来を支える担い手たち
岐阜県立岐阜工業高校(以下「岐阜工業高校」という。)の設備システム工学科が主催し、一般社団法人岐阜県設備工業協会と協力して開催した模擬企業展。この企業展は建築設備業界の人材不足と地元就職の促進という二つの課題に立ち向かうという想いが込められている。高校生たちが実際に建築設備業界で働く技術者と直接触れ合い、リアルな声を聞くことができるこのイベントは、地元企業にとっても大きな意味を持つ。
岐阜県の建築設備業界は、今、どんな未来を描いているのだろうか。地元で活躍できる技術者を育成し、担い手育成という視点でその可能性を探ってみたい。
2025/9/22
人材不足を背景にした模擬企業展の意義
建築設備業界も他業界と同様、深刻な人材不足に直面している。特に岐阜県においては若者の県外流出が続き、地元企業が必要な技術者を確保できず、慢性的な人手不足に苦しんでいる状況であり、この問題は将来の地域経済に深刻な影響を及ぼす可能性が危惧される。
この問題にいま一定の効果を示しているのが、岐阜工業高校が実施した「模擬企業展」だ。
模擬企業展が生徒たちにとって大きな意味を持つのは、単なる情報提供の場にとどまらず、実際に働いている人たちと直接触れ合い、自分が働く場所としての企業を実感できる点だ。
設備システム工学科の山口教諭は「高校生たちにとって、この模擬企業展で企業の社風や業務内容を知ることは、卒業後の進路を考える際の大きな参考になります。模擬企業展の実施後、大幅に岐阜県内企業に就職する生徒が増えたのは、その効果を如実に表していると思います。」と話す。
大学生を対象とした就活イベントは世に溢れているものの、高校生対象のものはあまり見かけることもなく、あったとしても「建築設備業界」に特化したものは皆無といえる。そんな中、このような模擬企業展は高校生たちにとって、企業を知る上で貴重な機会であり、地元企業の魅力も再認識できる場ともいえる。
求人票や進路指導で得られる情報だけではなく、実際に現場で働く社員から直接話を聞くことで、自分がどんな仕事をしたいのか、どんな企業で働きたいのかを具体的にイメージできるようになる。
これによって生徒が就職に向けて「自発的」に行動し、「自分の意志」で企業を選ぶことにつながり、未来を考えれば、それが定着率の向上にも繋がっていくはずだ。
業界団体と高校との連携
高校側と協力して「出前授業」という形式で会員企業に参加を呼びかけている一般社団法人岐阜県設備工業協会の荒川会長は、このイベントの背景をこう語る。
「これまで企業見学会などは実施してきましたが、企業の仕事現場を見ると言っても、訪問できる企業の数には限りがあり、実際にそこで働いている社員の話を聞く機会をそれほど多く持つことはできませんでした。この模擬企業展では、15社という多くの企業が一堂に会し、業界のリアルな情報を高校生たちに直接伝えることができます。」
この模擬企業展が生み出した成果が、昨年と一昨年の就職実績に表れている。一昨年、設備システム工学科卒業生27名のうち岐阜県内の企業への就職は3名のみで、14名の学生が県外の企業に就職し、残りの8名は進学するという業界にとって厳しい現実があった。しかし、模擬企業展後の昨年度では、卒業生27名のうち岐阜県内の企業に就職した生徒が14名にのぼった。これにより、就職者のうち県内就職率が約15.8%から約51.9%と飛躍的に向上し、地元就職の促進という目的が現実の数字として表れる結果となった。また、この県内就職先には「模擬企業展」に参加した企業も多く含まれていた。
この取組みは、単なる進路選択の場のみならず、学生たちが地元で活躍する意識を持てるようにするための重要なステップとなった。
建築設備業界の未来をどう切り開くか
こうした模擬企業展のような取組みが効果を上げる一方で、建築業界全体が抱える根本的な課題は依然として大きい。業界全体で深刻化する人手不足や働き方改革の実現に様々な課題があるなか、企業側のさらなる努力が求められる。
岐阜工業高校においても、生徒たちは、求人票をチェックする際に「給与」や「休みの日数」といった労働条件を重視しているという。
今後、建築設備を含む建築業界が担い手を確保・育成していくためには、働きやすい環境づくりが不可欠と言えるだろう。
「建築設備業界=地元を支える」という意識の醸成
岐阜県の建築業界が将来にわたって成長し続けるためには、将来の担い手である若い世代に「この仕事が地元を支えている」という意識を持たせることが非常に重要だ。岐阜県内においても、建築業界、中でも建築設備業界が担うライフラインの維持や地域防災における役割は極めて大きい。これを理解してもらうことも、高校生たちの進路選択に大きな影響を与えるだろう。
そのためには、地域に根ざした企業文化を育て、高校生たちが地域に貢献する仕事に誇りを持てるような環境を整える必要がある。「模擬企業展」はその第一歩となるが、それだけでは足りない。企業側も若手を雇用し、定着させる仕組み作り(社員教育など)を強化することで、地域経済の活性化と業界の持続的成長を支えることができるはずだ。
「模擬企業展」は、岐阜県の建築設備業界の未来を担う若者たちを育成する催しとしての可能性を持つだけでなく、地域経済を支えるための一つの突破口となるだろう。高校生たちに業界のリアルな声を届け、地元企業への就職意識を高め、さらには業界内での働きやすさや待遇改善に注力することが、地域全体の発展に繋がる。
今後も、こうした取組みを通じて、岐阜県の建築設備業界が持続的に成長していくことを期待したい。